2019年
契約書を作成することを考えたとき、わざわざ内容を法務に審査をしてもらって、相手方と何度も交渉をして、いざ代表者の方に捺印や署名をしてもらおうとすれば、決裁手続があって、と、契約締結までにはたくさんのハードルがあります。 ここまで慎重にならなければならないのには、ちゃんと理由があります。 それは、法律が契約に強い効果を認めているからです。 単なる約束にはない効果です。 契約で決めた事項が果たされなかった場合に、契約書を裁判所にもっていけば、裁判所が相手方に約束を果たすよう強制してくれます。 なぜ、ここまで強い効果が与えられているのでしょうか。 それは、契約は、両当事者が合意した取決め事項がその内容になっているからです。 お互い合意したのだから、ちゃんとその合意事項を守りましょう、守らない人がいれば、法律がその人が約束を守るよう強制します、ということなのです。 (ローマ時代のラテン語では"pacta sunt servanda"(合意は守られなければならない)という法諺もあります。)
契約書は契約という法律行為を証する書面であることは前回の記事で書きました。 ところで、契約と法律の違いは、法務部門の方であれば当然のことですが、そうでない方々にとっては、どういう関係にあるのか分りにくいこともあるのではないでしょうか。 契約は、基本的に、当事者同士が取り決めた事項がその内容になっています。 例えば、これを売ります、買います、いくらで買います、いつ引き渡します、壊れていたら弁償(損害賠償)します、というような取決めです。 しかし、日常生活の場面を考えてみてください。 コンビニで物を買うときに、そこまで細かく決めてから買っている人はいません。 そんなことをしていたら時間がかかって仕方ありません。 でも、これも立派な売買契約です。 この場面で決められているのは、その物を売る/買うということと、いくらで売る/買うということだけです。 実は、何を売買し、それがいくらか、ということが決められていれば、それは民法という法律によって、売買契約である、とされているのです。 そして、決めなかった細目については、民法が適用されて、内容が補充されます。 例えば、コンビニで雑誌を買ったとしましょう。 家に帰ってよくよく見てみると、破れているページがあったのを発見しました。 そこで、コンビニに文句を言いたい。 しかし、コンビニで物を買うとき、「ページが破れていたら、破れていないものと取り換える(追完請求できる)」「払ったお金を返す(損害賠償できる)」というような取決めは当然していません。 でも、それでは不公平ですね。 そこで、民法は、お互い細かいことを取り決めなかったとしても、物の売り買いと代金の支払を約束したのであれば、それを売買契約として扱います。 そして、民法が定めている売買契約に適用される定めが適用される、ということになります。 つまり、法律は、お互い合意しなかったことを補充する役割を担っていると言えます。 ということは、民法で、売買契約に適用されることになっている規定があっても、お互いが合意すれば、異なる条件を適用させることができる、ということでもあります。 その異なる条件が落とし込まれているのが契約であり、それを証するのが契約書である、という関係にあります。 なお、お互いが合意しても変えられない条件もあります。この話はまた別の機会にすることにいたしましょう。
「業務委託契約」と「業務委託契約書」という言葉は混同して使われがちです。 しかし、厳密にはこの2つは異なります。 「契約」は、当事者の意思が合致する法律行為です。 「契約書」は、「契約」が成立したことを証明する書面です。 たまに、「本契約書が成立したことを証するため、本書二通を作成し、甲乙記名捺印の上、各一通保管する。」というような文言が記名捺印欄の上に記載されることがあります。 上記の説明からお分かりのとおり、正しくは、「本契約は・・・」ですね。 ただし、例外的に、契約の成立に書面が必要とされる場合があります。 それは、保証契約です。 保証契約は、ある人が義務を履行しなかったときに、その人に代わって義務を履行するものです。 典型的には、ある人が借金をして、その人がその借金を返さなかったときに、代わりに返済する、というような契約です。 このような契約は、保証人を害することが多いことから、その締結を慎重にさせるために、書面が求められているのです。 書面がなければ、口頭で合意していたとしても、その効力はありません。 反対に言えば、このような特殊な契約以外は、口頭でも成立します。 それではなぜ契約書を作成するのか、ということについては、また機会をあらためてお話したいと思います。 (なお、法令で別途定められている場合、税務上求められる場合等も、契約書の作成は必要です。上記の話は飽くまで原則です。)
ビジネスを始める前に必ずといってよいほど締結されるのが秘密保持契約書。 毎回毎回結ばなければならないのは面倒だ、という声はよく聞きます。 しかし、秘密を開示する側にとっては、命綱ともなるものなのです。 Gentlman Agreement(紳士契約)とも呼ばれるこの契約書、果たしてどのような意味があるのでしょうか。 それは特許権等の知的財産権に関連します。 ある発明が特許として認められるための要件の一つに新規性というものがあります。 なぜこれが特許に求められるかといえば、それはこれまで誰にも知られていなかったものを世に出したことに対する報償という性質があるのが特許だからです。 そして、新規であるというためには、広く知られていないということが求められます。 もちろん、秘密であることを前提に誰かに教えたとしても、それだけで新規性が失われるわけではありません。 このことは、他社と協業をして得た発明であっても、特許が付与されることを考えればお分かりかと思います。 しかし、秘密であることを言わずに開示してしまった場合、どれだけ開示された人が少数であったとしても、これは公知となってしまい、公に知られているとみなされるのです。 後で「口頭で秘密だと言ってから開示した」と言っても後の祭り。 水掛け論にしかなりません。 そこで登場するのがこの秘密保持契約書です。 秘密保持契約書に当事者が記名捺印していれば、後で秘密として情報を開示したことを証明でき、特許の要件である新規性は開示によって失われていないことが立証できるのです。 そのため、開発を行うとき等には、必ず秘密保持契約書を作成して、発明を秘密として取り扱う旨を合意しておく必要がある、ということになります。 だからこそ、秘密を開示する側としては、秘密保持契約書は命綱ともなり得る大切なものなのです。 細かな中身もさることながら、秘密として開示している、ということが言えることがまずは大事なのです。
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