秘密保持期間の定め方のバリエーション

秘密保持義務を負う期間については、基本的に開示する秘密情報がどの程度で陳腐化するか、すなわち秘密情報の性質に焦点を当てつつ、これまでの取引実績等を踏まえた相手方の信頼性、交渉の経過などに鑑みて、判断されることになるのが一般的かと思われます。

なお、契約期間と秘密保持期間は異なります。契約期間は、その期間に開示される情報であって、契約上「秘密情報」の定義の範疇に入るものが、当該契約上秘密情報として取り扱われる(したがって、秘密保持義務の対象となる)期間を意味します。換言すれば、この期間を過ぎて開示された「秘密情報」の範疇に入る情報は、当該契約上「秘密情報」としては取り扱われない(したがって、秘密保持義務の対象とはならない)ことを意味します。

他方、秘密保持期間とは、開示された情報が契約上の「秘密情報」に該当することを前提として、その情報について受領者が秘密保持義務を負う期間を意味します。したがって、秘密保持期間が長く設定されていれば、契約期間が終了した後も、秘密保持期間が存続していることは十分考えられます。(むしろ、そのケースの方が多いのではないでしょうか。)

具体的には、2020年5月1日から2020年12月31日までの契約期間で秘密保持契約を締結し、秘密保持期間は、「開示されてから5年間」と定めた場合、2020年6月1日に秘密情報が開示されたときには、契約期間は2020年12月31日で満了となりますが、秘密保持期間は2025年5月31日までとなりますので、受領者は、2025年5月31日まで当該秘密情報について秘密保持義務を負い続けることになります。

これを踏まえた上で、秘密保持期間の定め方のバリエーションをいくつかご紹介します。

まずは、「本契約締結日から〇年間」というものがあります。例えば、契約締結日が2020年5月1日だとして、秘密保持期間が「本契約締結日から5年間」だとすると、秘密保持期間の終期は2025年4月30日となります。この場合、2020年6月1日に開示された秘密情報も、2025年4月1日に開示された秘密情報も、いずれも2025年4月30日までは秘密保持義務の対象となる秘密情報だということになります。開示が遅くなるほど、秘密保持義務の対象となる期間も短くなります。

このパターンは、契約締結と同時あるいはそれに近い時期に秘密情報を一気に開示して、その後は一切開示しないケースで用いることができます。契約期間が長く設定されていて、その間に散発的に都度新規の秘密情報を開示することが想定される場合は、あまり向いていない定め方と言えます。

次に、「各秘密情報の開示日から〇年間」というパターンもあります。これは、各秘密情報が開示された日を起算点として、そこから〇年間を秘密保持期間とするものであり、秘密情報が開示されるタイミングを問わずに、一律の秘密保持期間を適用できるものです。

上記の例を借りれば、2020年6月1日に開示された秘密情報は2025年5月31日まで、2025年4月1日に開示された秘密情報は2030年3月31日まで、それぞれ秘密保持義務の対象となる秘密情報だということになります(いずれの開示日も契約期間中であるものとします)。

このパターンは、契約期間が長く、散発的に新規の秘密情報を開示する必要性が想定される場合に用いることができます。ただし、開示側も受領側も、各秘密情報についての秘密保持期間を個別に管理する必要があり、管理が煩雑になりやすいため、実態が伴わないということにならないように留意する必要があります。

最後に、「契約期間終了後も、秘密保持義務は存続し続ける」とするものがあります。つまり、半永久的に秘密保持義務を負うとするものです。受領者の責めに帰すべき事由によることなく公知となれば、その時点で秘密保持義務の意味がなくなりますが、それまではずっと秘密保持義務を負い続けなければなりません。

開示者としてはこれが最も望ましいですが、受領者側には非常に重い義務となるため、反発することが当然ながら多いです。

テンプレートを使って秘密保持契約を簡易的に締結するにしても、秘密保持期間については、上記の要素を考慮に入れながら決定する必要があります。