開示側と受領側 – 秘密保持契約

これまで秘密保持契約についていくつか投稿してきましたが(秘密保持契約の意義秘密情報の定義の重要性秘密保持契約の目的条項)、中には「開示側だとすれば」という前提を置いて述べたものがありました。

定型的に処理されがちな秘密保持契約において、自社が開示側なのか、受領側なのか、ということは、すべての大前提となります。これによって、諸条件の規定の仕方が変わってくるからです。

例えば、秘密保持契約の目的条項でも述べたように、開示側であれば自己が開示する使用目的をなるべく限定したいのに対して、受領側としては広く目的を設定して、以降の事業活動につなげたいと考えるのが通常です。

受領側が広く目的を広くとっておいて、以降の事業活動につなげたい、という意味は、悪用する、ということではなく、例えば、A社がB社に対して、ある製品の製造依頼を検討しており、まずは見積もりを得るために、A社が製品仕様をB社に開示しようとしている例を考えてみると、仮に使用目的を「A社からB社に対するα製品の製造依頼の可否を検討するに際して、A社が開示する秘密情報に基づいて、B社がA社に対してα製品の製造にかかる費用の見積もりを作成して提出するため」とした場合、目的は「見積もりの作成と提出」ということになります。そして、見積提出後に、実際に製造依頼をする、となった段階で、製造の際にも、見積のために開示された情報を使うことになるかと思いますが、「製造」は上記の使用目的に含まれていないため、別途契約を締結する必要があるか否かが問題となり得ます。もちろん、見積時の契約解釈によって、製造時に使用されることが当然に想定されており、製造段階での使用も契約の範囲内である、ということも言えなくはないでしょうが、疑義が生じる可能性があることは否定できません。

これは一例ですが、他にも、秘密を保持するために採るべき対策、役職員に課される義務の重さ、秘密保持期間など、開示者と受領者では検討の方向性が真逆になる部分ばかりです。秘密保持契約に限らず、契約一般に言えることではありますが、秘密保持契約に引き付けて考えると、ということです。そして、なぜあえて秘密保持契約で特段問題としているかと言えば、それは、秘密保持契約の目的条項でも述べたように、秘密保持契約がテンプレート化されていることが多く、時として、テンプレートを使用する部分が誤って、自社の立場とは逆の想定のテンプレートを使用してしまう(例えば、自社が秘密情報を開示する側なのに、自社が受領側となる想定のテンプレートを使用してしまうなど)ことがあるからです。この点、業務委受託契約やM&A契約などは、誤る可能性は極めて低いと言えるかと思います。

秘密保持契約は日々発生し、定型的に処理されていってしまうものであるからこそ、この流れの中でミスが起こらないような仕組み(Wordにコメントを付す、イントラに注意書きを記載する、使用時には簡易的なチェックリストで誤解がないように確認する、など)を整えておくことも、法務部門の一つの役割ではないかと思います。